浜離宮朝日ホール|朝日ホール通信

1992年オープンの室内楽専用ホール。特にピアノや繊細なアンサンブルの音色を際立たせる設計でその響きは世界でも最高の評価を受けています。


>> P.4

演奏活動60周年ライフワークとしての小品集前橋汀子&弦楽アンサンブル©篠山紀信ヴァイオリニスト、前橋汀子さんが2022年に演奏活動60周年を迎えられるという。前橋さんはまだ1ドルが360円だった時代、つまり海外旅行も現実的ではなかった時代に、はるばるソビエト連邦(現ロシア)まで赴かれたパイオニアである。1961年にレニングラード(現サンクトペテルブルク)音楽院に留学、さらにアメリカのジュリアード音楽院へと進み、数多の国際音楽コンクールに入賞して世界の楽壇へと進出したあたりで、私は幼いながらクラシック音楽に興味を持つようになり、前橋汀子という日本のヴァイオリニストがズービン・メータが指揮するロサンゼルス・フィルをはじめ、レオポルド・ストコフスキーやルドルフ・ケンペといった欧米のマエストロや一流のオーケストラと華々しい共演を繰り広げていることを知った。もちろん、当時の数少ない民放のクラシック番組『オーケストラがやって来た』にときどき出演されているのを拝見もし、その華麗な立ち振る舞いにも大きな感銘を受けたものである。世紀が変わったころから、縁あって私はレコード会社の立場で前橋さんのお仕事に関わらせていただくようになったが、そのころの前橋さんはライフワークのひとつとして『ヴァイオリン小品集100』CD6枚/分売)という前代未聞の大企画をまとめ上げておられた。1984年のアルバム『亜麻色の髪の乙女』から始まり、1997年の『感傷的なワルツ』、2000年の『アン4©HikaruHoshiダルシアのロマンス』、そして2001年の『悲しみのゴンドラ』『モスクワの思い出』『エストレリータ』で完結となった長期にわたる大掛かりな企画である。1970年代には欧米でメンデルスゾーンやチャイコフスキーは言うに及ばず、パガニーニやストラヴィンスキーなどの協奏曲でもって欧米の聴衆を相手に華々しい演奏を聴かせていた前橋さんは、これらの小品がそういったヴィルトゥオーゾな大曲に匹敵する素晴らしい力を持つということを、この6枚のアルバムで明らかにしたのだった。この春、「演奏活動60周年記念/浜離宮朝日ホール開館30周年記念」として、素晴らしい若手奏者を中心とした弦楽アンサンブルとの共演による珠玉の小品集による公演が行なわれることになった。ひとつひとつは小さなピースだが、前橋さんのヴァイオリンにかかれば迸るような熱量と艶やかさ、そして名手ならではの爽やかな風が聴き手を包み込むに違いない。メインとなるヴィヴァルディの『四季』と言えば前橋さんがスカラ座弦楽合奏団と共演した1992年の名盤が脳裏に浮かぶけれど、今回の演奏では気心の知れた仲間たちとのよりインティメイトなヴィヴァルディが聴けるのを心から楽しみにしているところだ。文/杉田元一(ソニー・ミュージックレーベルズレコーディング・プロデューサー)4/6(水)14:00¥6,500出演:前橋汀子(ソロ・ヴァイオリン)森下幸路(コンサートマスター)森岡聡(1stヴァイオリン)伝田正秀、平山慎一郎(2ndヴァイオリン)伴野剛、小倉萌子(ヴィオラ)門脇大樹、中西哲人(チェロ)石川徹(コントラバス)重岡麻衣(チェンバロ)マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲エルガー:愛の挨拶ドヴォルザーク:わが母の教え給いし歌、スラヴ舞曲Op.72-2マスネ:タイスの瞑想曲サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」ほか


<< | < | > | >>