浜離宮朝日ホール|朝日ホール通信

1992年オープンの室内楽専用ホール。特にピアノや繊細なアンサンブルの音色を際立たせる設計でその響きは世界でも最高の評価を受けています。


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スリリングな魅力に富んだ17世紀のヒットソング集ヴェネツィア、ナポリ、ニュルンベルク、ロンドン……今から数百年前のヨーロッパでは、小学校の縦笛ことリコーダーが大人たちを夢中にさせ、あの小さな笛が本格的な音楽を披露していた場所が随所にあった。オランダの古都ユトレヒトもそうで、同市の大聖堂音楽家ヤコブ・ファン・エイクが17世紀半ばにまとめた「笛の楽園」はリコーダー向けの最重要演目群に数えられる。記されている楽譜が概ね単旋律なので大抵は無伴奏曲として扱われるが、個性派リコーダー奏者が多い現代でも指折りの異才・濱田芳通は、これを必ずしも一人だけでは演奏しない。2023年10月には、そんな濱田の取り組みがどれほど説得力に満ちスリリングな魅力に富んでいるか、浜離宮朝日ホールで2夜にわたり堪能できる。「作曲家の企図に忠実に、というのが鉄則だったクラシック音楽の世界から、楽器や奏法まで作曲当時のスタイルに合わせてゆく古楽器演奏が生まれました。でも17世紀まで遡ると、音楽家たちは当時みんなが知っていたヒットソングをジャズみたいに即興で装飾して披露していたんです」と濱田は語る。「作曲家はたいてい演奏家でもありましたからね。ファン・エイクもリコーダーの演奏を披露していたことが判っています。『笛の楽園』はCDもレコードもない当時、笛ひとつで吹ける楽譜に調えたヒットソング集なんですよ」。その元歌が声楽でも披露されるのが一夜目(10/17)の公演だ。ちなみに、ファン・エイク自身がリコーダーを彼一人だけで演奏していたかまでは突き止められていない。リコーダー四重奏を軸に、クラシック以外の領域でも活躍するリュートの高本一郎やパーカッションの和田啓が加わる2夜目(10/18)はそうした背景を踏まえてのプログラムである。「笛の楽園」は17世紀オランダで編纂されたが、元歌4©ATSUKOITO(StudioLASP)の由来は同国内に限られない。海運力に優れた先進国家の産物だけに、南米大陸や日本との縁さえ指摘できるという(本稿のためのインタビューではフェルメール作品に描かれた絹織物など、当時の日蘭関係にも話題が及んだ)。寒い地域らしい南国への憧れも垣間見える。実際、当時はイタリアの音楽が欧州を席捲しつつあった時代でもあった。「日本語の歌で洋楽風の歌い方が流行ったようなもので、結局その頃はみんなイタリアに憧れて真似ていたんですね」。在欧時代から歌心に満ちたイタリア音楽やスペイン音楽の演奏で注目されてきた濱田ならではの解釈に期待が尽きない。白沢達生(音楽ライター)ヤコブ・ファン・エイク「笛の楽園」Ⅰわが心の光〜リコーダーと声楽による〜10/17(火)19:00出演:濱田芳通(リコーダー/音楽監督)中山美紀(ソプラノ)、中嶋克彦(テノール)、上羽剛史(オルガン)ファン・エイク:ああ、眠りよ、甘き眠りよほかヤコブ・ファン・エイク「笛の楽園」Ⅱ起きろ、起きろ、狩へ行くぞ!〜リコーダー・カルテットによる〜10/18(水)19:00出演:濱田芳通(リコーダー/音楽監督)浅井愛、織田優子、大塚照道(リコーダー)高本一郎(リュート)、和田啓(パーカッション)ファン・エイク:あの頃の私は愛に溺れていたほか各¥5,0002公演セット券¥9,0006/21(水)発売


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