浜離宮朝日ホール|朝日ホール通信

1992年オープンの室内楽専用ホール。特にピアノや繊細なアンサンブルの音色を際立たせる設計でその響きは世界でも最高の評価を受けています。


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12〜3月の公演からバンジャマン・アラールチェンバロ・リサイタル2022¥5,50020222/10(木)1/8(土)発売19:00バッハの時代の肌感覚を持つ古楽器奏者だからこその説得力西洋芸術音楽の原点のように言われるバッハの音楽も、まったくの無から生まれたわけではない。彼が数々の伝統を受け継ぎ、音楽で生計を立てていた社会があって、そこで生きていた人々に向けて彼が書いた作品の数々が、今も私たちを驚かせ続けている。その実像にどう迫れるか。現代ピアノからの逆算ではない、当時流の肌感覚を養った古楽器奏者の実演は、その意味で実に貴重だ。バッハは生前、何よりオルガンの大家として知られていた。少年時代からこの巨大楽器に深く親しんでいたのだ。バンジャマン・アラールのバッハ演奏に格別の説得力があるのは、まさに彼自身も早くからオルガンに惹かれて音楽の道に進み、国際コンクールを制して以降もなお、オルガン演奏でもチェンバロ同様に実績を重ね続けている人だからだろう。故郷は重要なオルガン音楽家を多く生んだ古都ルーアン。フランスの古楽界で、バッハが憧れ模倣した昔日のフランス音楽にも深く馴染んできた。10年来リリースが続くバッハ作品の新名盤の数々でも、チェンバロとオルガンを双方、自身の脳と一続きのように自然に弾きこなしている。大学都市のカフェで音楽仲間に囲まれていたバッハさながら、第一線の古楽歌手・古楽器奏者たちとの共演も多く、2017年の来日時のように、才人集団ラ・プティット・バンドの一員としても頼もしい。J.S.バッハ:シンフォニア第5番変ホ長調BWV791フランス組曲第4番変ホ長調BWV815トッカータト長調BWV916協奏曲ハ長調BWV976(原曲:ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲RV265)フランス風序曲BWV831イタリア協奏曲BWV971バッハが門弟を教え導くために書いたシンフォニアに始まり、異国の音楽作法と「オルガンありき」のドイツ鍵盤芸術の伝統との間で書いた、仏・独・伊3様式の音楽へ。そうした鍵盤音楽作曲の集大成として、オーケストラ向けの組曲と協奏曲をチェンバロ一つで再現してみせた「鍵盤練習曲集第2巻」の2大作へ。作風確立の歩みを鮮やかに示す選曲のリサイタルが迫る。そういえば、かの大家がライプツィヒで生涯の職に就いたのも30代後半、今の彼くらいの年齢だった。彼のバッハ解釈を今こそ聴いておくべき必然性を強く感じる。文/白沢達生3


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